2021年、77才の生涯を終えた父を送り出した4日後、TVディレクター上野智男さんの誘いでスープカレー、インドカレーの名店、五○堂へ行った。上野さんはそこで音楽家、土取利行さんと初めて会った。
マスターの五十嵐さんの計らいで土取さんの1stレコードやこれまでの代表的なレコードコレクション、土取さんと共演されたミュージシャンのレコードを次々とかけてくれた。土取さんの話と店内で流れる音楽がシンクロする。一夜にして、土取さん自身、土取さん周辺の音にまつわる人生を知ってしまった。僕にとっては初耳の音源の数々だったが、何もかも知らないはじめての話で身体が一瞬硬直したが、得体の知れない静かな興奮が身体を包む。唯一、知っていたのは、解剖学者、三木成夫氏、野口整体創始者、野口晴哉氏、弘法大師、空海のことだった。それから、気になる書物を手に入れて読んでは、その中で繋がりのあり気になる書物を探し新たに読む。今、現在も続いている。次の日、小樽、余市と古代から近代の遺跡を見てまわる。車内で土取さんのCD(live concert tokyo 1974 近藤等則、梅津和時、土取利行)が流れる。何気なく即興について、質問した。土取さんの声色が変わった。何も知らない自分が気軽に表現の極意を軽はずみに聞いた事を反省した。
次の日、土取さんと上野さんのナビゲートのもと、フゴッペ遺跡、西崎山環状列石、よいち水産博物館、前庭にあるアイヌの歌人・違星北斗旬碑、小樽、忍路の環状列石、そして小樽総合博物館を巡った。この体験は、彼らがこれまでに蓄積した専門的な知識と経験が照らし合う、静かで深い時間そのものである。
この旅を通じて、場所や空間に着目することの重要性を再確認した。「目には見えないものが、思いもかけないタイミングで浮かび上がる」ということを理解した。この後、私は思いもよらぬ経験をすることになるが、この時点では何も知らず、ただ感心するだけであった。
このような巡り合わせは、歴史や文化を体感することの意義を強調するものであり、土取さんと上野さんのナビゲートによって得られた洞察は、私の心に深く刻まれた。
この日は、版画家・絵本作家の手嶋圭三郎さんのアトリエを訪問させていただいた。上野さんが手嶋さんの特集番組を制作し、音楽を土取さんが担当したことがきっかけで、私は運転手として同行することになった。手嶋さんの版画は、大自然で生きる動物たちが生き生きとした姿で描かれている。緻密な描写と美しい構図、ストーリーは命あるものへの畏敬の念を感じます。見るたびに新しい発見があります。訪問したアトリエの空気感には驚かされた。動物たちのスケッチや版画が所狭しと並べられており、彫刻刀や鉛筆などの道具を目にするだけで心が躍った。まるで時が止まったかのような、一瞬の夢の中にいるような気分になった。
11月、土取さんが北海道でLIVEを行うお知らせを受けました。
【縄文鼓とアイヌ音楽の世界】
出演:土取利行さん、Kapiw & Apappo(床絵美さん&郷右近富貴子さん)
日時:2022年11月26日(土)開演:午後3時
主催:北大文化人類学部特別イベント
会場:北海道大学クラーク会館講堂
この特別な機会に、裏方としてご一緒できたことを大変嬉しく思います。新千歳空港で再会し、リハーサルから公演、研究会、砂沢ビッキ展、五○堂まで、濃密な時間を共に過ごしました。Kapiw & Apappoのお二人の美しい歌声とムックリの音色、土取さんの縄文鼓、そして多国籍の楽器の響きが重なり合い、時間が静かに流れていくのを感じました。
土取さんとあらゆる場面でご一緒する事は私にとって貴重な芸術体験でした。
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